総入れ歯の痛みについて

院長ブログ

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総入れ歯の痛みについて



もう20年ほど前になりますが、総入れ歯の科に大学院生でいたとき、入れ歯の調整でかなり困ったことがありました。下顎の入れ歯がいつも痛いと言ってくる人がいました。診てみると、入れ歯の縁に当たりがあるようで傷になっていました。僕は入れ歯の辺縁が長くて当たるんだろうなと思い、その部位を一生懸命に削除し、当たりを弱めて傷の部位に薬を塗って処置を終えました。ところが、その傷は治らずに次の日も痛いと来院されてきました。

ほとほと僕も困り果てて教授に診ていただいたところ、教授は入れ歯を下顎のみ入れて両手で第一大臼歯部を垂直方向に押していました。僕は内心、そんなことをしたら痛くなると思ったら、患者さんは全く痛がる様子はないのです。そしたら教授は「これは咬合に問題があるよ」と言って、上下顎の総入れ歯を入れて、まず奥歯で咬ませて音を聞いていました。その時はカクカクいう音でした。教授は「まず、この音を覚えとけ」と言い、上下顎の入れ歯の咬み合わせの面に咬合紙を入れて調整を始めました。そして、咬合調整が終わった入れ歯を口腔内に入れて、その咬合音を聞いてみるとカンカンという高い音でした。教授は一言「な、違うだろう」僕は何で違うんですかと尋ねると、「それは自分で考えろ」と言って去っていきました。

患者さんはそれから全く痛みもなく、よく食べられると言ってくださり定期健診の時も全く大丈夫と言ってくれました。

もともと職人気質の教授で、あれこれ教えてくれる人ではなく患者さんを前にして技術的なことを教わったのはこれが最初で最後でしたが、今でもこの経験は自分にとって入れ歯の調整において最重要視しています。

カクカク音とカンカン音の違いは、カクカクの場合は咬むときに一回当たってずれるとちょっと濁った音になります。カンカンと高い音は左右上下の歯が一点でしっかり咬んでいると澄んだ音になるのです。教授はこのことを教えたかったのだなと、勉強してわかりました。
今ではこの経験をさせてくれた患者さんと教授に感謝しております。